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"スクリプター"って……何?


はじめに

この記事は Colorful Palette アドベントカレンダー12/19の記事です。
こんにちは、株式会社Colorful Paletteでリードスクリプターをしているケイ です。

「スクリプターって何してるんですか? エンジニア?」

一言で表すなら、次のような画面を作っています。


もう少し詳しく説明すると、シナリオチームが制作したシナリオを元に、セリフに合わせてキャラクターを表示したり、場面に合ったBGMやSEを流したり……といった、シナリオの演出全般を担当しているのがスクリプターです。
なので、とりあえず「スクリプター」=「シナリオ演出家」という認識を持ってもらえると嬉しいです。

ですがゲーム開発について詳しくない人達にとって、スクリプターという職業はあまり馴染みがないようで、自己紹介をするとそのまま仕事内容の説明までする機会がよくあります。
確かに会社によってはプランナーやシナリオライターなど、他のセクションの人がスクリプターも兼任することがあるので、表舞台にスクリプターという単語が出てくることは多くないかもしれません。
しかし上記動画のように、「ユーザーさんの目に直接触れる部分を作っている」という点では、私はスクリプターも重要なポジションだと思っています。

ですので今回の記事では、私達ストーリースクリプトチームが「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」(以下、「プロセカ」)において、どのような仕事をしているのか簡単に説明したうえで、普段仕事をする際に気をつけていることや、こだわっていることについても紹介できればと思います。
この記事を読んで、スクリプターという仕事について少しでも知ってもらえたら嬉しいです!

主な仕事内容

ストーリースクリプトチームは大きく分けて、2D班と3D班に分かれています。
3D班の業務担当範囲は、主にイベント終了後のバーチャルライブ(3Dキャラクターによるライブコンテンツ)なのですが、私の担当範囲が2Dなので、今回の記事では2D側についてお話させていただきます。

前項の内容と多少被ってしまいますが、改めて2D班の業務担当範囲を説明しますと、主にLive2Dによるシナリオパート(各イベントやカードのストーリー、エリア会話など)で、ストーリー中に見えるもの・聞こえるもの全てを制御しています。
先程と同じ動画ですが、次の例を見てみましょう。


上記動画ですと、

  • キャラクター(表情やモーション含む)

  • セリフ表示とボイス再生

  • 背景

  • 集中線エフェクト

  • 画面揺れ

  • セリフウィンドウ揺れ

  • 足音のSE

これらの表示・非表示・タイミングの全てをスクリプターが設定しています。また、中でもキャラクターの表情やモーションについては、

  • その場面に適している

  • そのキャラクターらしい

  • ボイスのニュアンスにも適した

ものを選ぶように細心の注意を払っています。では何故そこまで気をつけているのか、次項から見ていきましょう。

制作する上で大事にしていること

1.「リアル」の話

簡単な仕事内容の説明は前項で終わったので、ここからは実際にスクリプトを制作する際のお話です。

弊社でスクリプトを作る際には、色々と意識していることがあります。中でも大事なのが「キャラクターを魅力的に見せる」ことです。
ではキャラクターを魅力的に見せるにはどうすればいいでしょうか?
色々と方法はあるかと思いますが、私が一番大事にしているのは「リアル」にすることです。

極端な例ですが、「うん、そうだね!」と元気よく肯定するようなボイスに対して、うなだれるような動きと悲しそうな表情を設定してしまうと、ボイスとキャラクターの様子がちぐはぐになってしまいます。
結果として不自然な見た目になってしまい、キャラクターとの間に壁を感じるようになってしまうので、一歩引いた視点からしか見られなくなってしまいます。
(実際、私も不自然な箇所が気になってしまい、シリアスなシーンでもキャラクターに対して表面的な興味しか持てなくなってしまうことが時々あります)
文章だけではわかりづらいので、実際に動画で見てみましょう。


楽しそうな声色のボイスと違い、表示されているキャラクターは悲しそうにうなだれるため、まるで表示されているキャラクターとは別のキャラクターが喋っているように感じられてしまいます。

一方、セリフ内容に沿った力強く頷くような動きを設定してあげると、セリフと動きに一貫性が出るため、特に違和感を覚えること無くキャラクターに接することができるようになります。
こちらも動画で見てみましょう。


このように、人として自然な動きや反応をするキャラクター、つまり現実感を伴っているリアルなキャラクターは身近に感じられ、抱えている問題や悩みにも共感しやすくなります。

ただしリアルといっても、「リアル」=「現実世界」ということではありません。
あくまでもプロセカの場合は現実世界に限りなく近い舞台設定なので、現実に即した演出をするように心がけているだけです。
それぞれの作品世界にとっての普通さ・自然さとは何か考え、それを追求する事が「リアル」にすることだといえるでしょう。

2.演出の省エネの話

前項でプロセカは現実に即した演出をしているという話をしましたが、一から十まで現実に即して作ればいいというわけでは無いです。
次に説明するように、時には現実と異なる表現をしたり、一部演出をカットする場合もあります。

 a.「お約束」で表現する

小説において「文と文の間を数行空ける」とその間の時間が省略される(場面が変わる)ように、ゲームでは「暗転演出を数秒挟む」と時間が経過したり場所が変わるというお約束があります。
これまた極端な例ですが、「次の日に切り替わる時の暗転演出をリアルにするぞ!」と、暗転中に何時間も待つ必要はないですよね。
「お約束」という、適度に省略した簡単な演出でユーザーさんに伝わるのであれば、それを使うに越したことはないと思います。

 b.積極的にカットする

プロセカでは、学校の教室や各キャラクターの部屋への入退出シーンでは、足音のSEは例外を除いて基本的に鳴らさないようにしています。
なぜなら、足音のSEが無くても今何が起こっているのか把握できるからです。
こちらについて動画も使って詳しく見ていきましょう。
よければ動画内で起こった状況を説明できるように、考えながら見てみてください。


いかがでしょうか?
おおよそ「キャラクターが教室に入ってきて『おはよう』と発言した」といった答えになるかと思います。
では次の動画ではどうでしょうか?


こちらも先程と同じ答えか、あるいは「キャラクターが教室中央まで入ってきて『おはよう』と発言した」くらいの答えになるかと思います。
これらの答えを比べると、2つの動画の違いとしては、発言時の立ち位置の詳しい情報があるかないか、という差しかありません。
ドアを開けるSEの後にキャラクターが表示されるだけで教室内に入ってきたことがわかるので、それ以上詳細に表現する必要は無いわけです。
ただし、教室内がとても静かである様子を表したい場合や、この後のストーリーで教室内における立ち位置が重要になってくる場合などは、逆に足音のSEが重要になってくると思います。
また、体育館やコンサートホールなど、ある程度広い空間の場合は移動に時間がかかるため、その広さを表現するために足音のSEを入れてもいいかもしれません。


以上のように、「お約束」の表現を使ったり、無くても問題ない演出はカットすることで、ユーザーさんへ与える情報をシンプルにすることができます。
ではユーザーさんに与える情報が少なくなるとどうなるのか、次項で見てみましょう。

3.情報量と情報の変化の話

私たち制作者は、そのお話が次にどういう展開になり、どう終わるのか知っている状態で制作します。ですがユーザーさんは、これから何が起こるのか分からない状態で読み進めることになります。
プロセカのストーリーの場合、ユーザーさんは最低でも

  • セリフの文字

  • キャラクターの表示・非表示

  • キャラクターの見た目(モーションや表情)の変化

  • キャラクターのボイス

  • BGM

という5つの情報に晒されています。
ここに状況に応じて、

  • SE

  • 画面効果(画面が揺れたりエフェクトが再生されたり)

が加わってきます。
画面上に一度に沢山の情報を出したり、同時に複数の情報が変化してしまうとユーザーさんは情報を処理しきれず、何が起こったのか把握できなくなる可能性があります。
その結果としてその後のストーリーに入り込めなくなり、感情移入の妨げに繋がってしまいます。
既に公開済みのイベントでいい例があるので、動画で比較してみましょう。
まずは悪い例からです。


スクリプトを調整し、演出の間隔をわざと詰めて伝わりづらくしてみました。
シーン全体の詳細な流れとしては以下のようになります。

  1. 一連のセリフ終了後、おたまが光るエフェクト&SE再生(00:00~00:04)

  2. ホワイトアウトを挟んでスチルから元の背景に戻す(00:04~00:06)

  3. モブキャラのセリフと同時におたまから風が出るSEをループ再生(00:06~00:15)

  4. 会話後、3のSEを停止と同時に攻撃用のSEを再生、さらに同時に画面を揺らしてBGMもフェードアウトさせる(00:15~00:18)

  5. 人が倒れるSEを再生すると同時に画面を揺らす(00:18~00:20)

  6. キャラクターのリアクションを入れる(00:20~00:23)

次に調整を加えていない、本来の演出を見てみましょう。


キャラクター表示やSE再生などの各演出の間を若干開けることで、1つ1つの演出で何が起こっているのかが先程よりもわかりやすくなったかと思います。
詳細な変更点は以下の通りです。

  1. 一連のセリフ終了後、0.5秒待ってからおたまが光るエフェクト&SE再生(00:00~00:05)

  2. ホワイトアウトを挟んでスチルから元の背景に戻す(00:05~00:07)

  3. 先におたまから風が出るSEをループ再生し、2秒後にモブキャラのセリフを表示(00:07~00:17)

  4. 会話後、0.5秒待ってから3のSEを停止と同時に攻撃用のSEを再生、さらに0.5秒待ってから画面を揺らしてBGMもフェードアウトさせる(00:18~00:24)

  5. 4の攻撃用のSEが静かになるまで2秒追加で待ってから、人が倒れるSEを再生すると同時に画面を揺らす(00:24~00:27)

  6. キャラクターのリアクションを入れる(00:27~00:29)


このように、何が起こったのかを一段回ずつ理解してもらえるような演出に整理することが重要です。
情報は極力小出しにして、間隔もできるだけ空けることを意識しながら制作していきます。

また余談ですが、普段はここまで説明してきた「リアル」「演出の省エネ」「情報量」に気をつけつつ、ギャグシーンやシリアスな場面で少しだけ逸脱することで、そのシーンを逆に際立たせ、ユーザーさんに印象づけることができるようにもなります。
ただ情報の許容量には個人差があるでしょうし、どこまで制限するか、または盛るかという塩梅を決めるのは中々難しいです。

おわりに

さて、ここまでスクリプターの仕事の簡単な紹介と、制作する上で大事にしていることやこだわりについて説明してきました。
普段何気なく見たりプレイしたりしているゲーム画面は、スクリプターの他にもプランナー、デザイナー、シナリオライターなど、実は様々なセクションの人が携わることでできています。
今回の記事を通して、なるほどこういう仕事もあるのか、と少しでも知ってもらえたら嬉しいです。

また、今回はできなかった話(ポーズを維持し続ける話・モーションのタイミングの話)なども、機会があればどんどんしていきたいと思っています。
ここまでお読みくださりありがとうございました!

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