コンセプトメイクからはじめるBGM作り
はじめに
この記事は Colorful Palette アドベントカレンダー 12/9 の記事です。
こんにちは、サウンドディレクターのYisochです。
今回はBGMの制作方法について「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」(以下、「プロセカ」)のイベント「交響する街の片隅で」のタイトルBGMをもとに、少しだけご紹介したいと思います。
※イベントストーリーのネタバレ要素を含んでいます、ご注意ください。
具体的な作曲テクニックというよりは、コンセプトメイクの視点から曲作りへのアプローチについての記事となります。
ゲームにおけるBGMとは
BGMを作る、つまり作曲するという話になると、
「メロディーが降ってくる」
といった表現が一定世の中に出回っている部分もあるおかげか、何かアーティスティックな創作をしているのではないか、と思われることがあります。
ですが、ことゲームBGMとしての曲を作るという立場においては、どちらかといえばアーティストというスタンスよりも、デザイナーとしての考え方に従ってものづくりをすることがほとんどです。
作品全体として伝えたいコンセプトが、ゲームBGMという存在を通すことで正しくユーザーに伝わるか、ということが最も重要です。逆に言えば、よくわからないクリエイター自身の世界観を音楽の姿を借りて押し付ける、というのは圧倒的にNGなものだと思います。
そんなわけなので
「メロディーが降ってくる」
ということはゲームBGMである以上、絶対にありえない。
「アイデアを脳内の引き出しから引っ張り出して世界観に沿ってメロディーとしてデザインする」
というのが基本になってくると思います。
(一旦ここまで個人の見解です)
プロセカにおけるBGM作り
そんな考え方ですので、プロセカにおいてBGMを作る際には、
その曲が流れるシチュエーション、登場するキャラクター、伝えたいストーリーといった要素を読み込んで、その上でどのような音で表現するのが最適だろうか…というコンセプトを作るところから始めます。主にそのイベントで登場するキャラクターのカードイラストと睨めっこしながら。
このあたりは、12月6日のさーもんさんの記事で書かれていた効果音の制作方法と同じアプローチですね。
コンセプト作りの時間は時に苦しくもあり、一番楽しい時間でもあります。
イベント「交響する街の片隅で」BGM制作
概要
イベント「交響する街の片隅で」は、志歩と杏が二人仲良くストリートの片隅でセッションしている、というイラストでした。
ストーリーも、二人やその交友関係を含めた新たな繋がりが生まれていて、互いの音楽に対する姿勢に互いが刺激を受けて…と、今後の二人と、Leo/needとVivid BAD SQUADそれぞれの活躍がさらに楽しみになる
内容でした。
音で表現するべき要素を考える
それらイベントの世界観をふまえ、BGMでは以下の要素を表現するのがよいのではと考えました。
2人のセッション
ストリートらしさ
志歩らしさ
杏らしさ
それぞれのバンド・ユニットの個性
要素を重ねて組み立てる
表現するべき要素が決まったら、今度はそれをより具体的な音のイメージに変換して、重ねていきます。
2人のセッション
2人なので、曲全体での音数はシンプルのほうがよさそう
リズムをとるためにフィンガースナップやクラップを使いそう
2人でセッションするとしたらおそらく手を使ってリズムをとるだろう…そうイメージしたときに、この音が今回のBGMの核になると考えました。
ストリートらしさ
R&BやHipHopのようなリズムが使われそう
シンプルにビートがはっきりしていて、セッションなのでところどころに三連符のようなキメがありそうです。さらにk-popのような細かなリズムによるメリハリもあったほうが、現代の音楽シーンを生きる2人のイメージを表現できそうです。
志歩らしさ
エレキベース
硬派
かっこいい
イラストを見たところ、ここでの志歩はベースをフィンガーで弾いていそうです。また自身のバンドでは、頼りがいのあるしっかりとしたリズムキープをしています。今回のBGMでもフィンガーの音色を採用しつつ、遊び少なめの比較的硬派なベースラインにすることで、先ほどのビートと合わさって、曲全体のリズム感をしっかり支えてくれるイメージになりそうです。
杏らしさ
耳に残る歌声
エネルギッシュ
おしゃれ
杏をイメージするために、声(コーラス)の要素は不可欠ですね。彼女は元気でもありつつ、時々クールでおしゃれでもあります。今回の曲全体として考えたときには、どちらかといえばクールさに振ったほうが、志歩のイメージとの親和性がありそうなので、そちらのカラーのコーラスにしてみます。
さて、ここまで要素を加えてきたのですが、何かすこし足りませんでした。2人でのセッションであることは担保できていた認識はあるのですが、2人でセッションしたことによる化学変化を表現できていませんでした。
その要素をメロディーとして、加えてみます。
では、ここまでの要素を少し修正しつつ、合わせてみます。
それぞれのバンド・ユニットの個性
Leo/need
ギターやシンセを用いたバンドサウンド
Vivid BAD SQUAD
コーラスやDJサウンドを用いたストリートミュージック
最後に、世界観をより表現するために、それぞれのバンド・ユニットの個性を表す音をちりばめていきます。複数の音が重なっていく中でも、曲全体として伝えたい部分がボヤけてしまわないように、一つ一つの方向性を確認しながら整えていきます。
ストリートセッションのシチュエーションであることを表現する
全体ではシンプルめな構成の印象にする
音数が少なめになるように引き算したパートを用意する
音割れの要素をいれる
全体のミックスバランスを粗めにする
ベースやビートを多少大き目にする
こちらで完成となります。
もしかしたらありえた別の姿
もしも、このイベントのシチュエーションが以下のようなものだったらどうなったでしょうか。
二人がセッションした場所がストリートではなく学校の教室だった
そもそも出会ったのは志歩と杏ではなく咲希と杏だった
恐らく、ベースではなくピアノなど鍵盤楽器を主軸にして、もっとLeo/need側のカラーが強くなり、ビートではなくドラムキットを用いたりと、バンドサウンドのような方向性で作っていたのではないかなと思います。
BGMから世界観を引っ張る
良いゲームBGMが持つ要素のひとつとして
「その曲を聴くだけでゲームの世界を追体験できる」
という点があるのかなと思います。たとえストーリーを読まなくても、たとえイラストを見なくても、音だけでシチュエーションが回想できる、そんな数々の名曲たちがありますね。
作品全体として伝えたい世界観を守りつつも、このBGMがあるからこそ新たなストーリーが紡がれていったり、このBGMがあるからこそ新たなシチュエーションが生まれていく、そのレベルまでBGM側から働きかけられるようになることも、サウンドが目指すべきゲームBGMの形なのかもしれません。
おわりに
余談ですが、できるだけそのキャラクターやシチュエーションに物理的に環境を近づけることも大事かと思うわけでして。
25時、ナイトコードで。のストーリーのBGMを作るときには、奏の部屋のように部屋を真っ暗にしてブルーライトを浴びながら作業しています。
誰かを救える曲、なんてすごいものは僕にもまだまだ作れそうにありませんが、これからも少しでも、彼ら彼女らのセカイをサウンドの力で皆さんにお届けできたらいいなと思います。
ありがとうございました。